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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)12602号 判決 1970年4月13日

原告 株式会社栃木相互銀行

右訴訟代理人弁護士 坂本雄三

同 柴田政雄

同 筒井健

右訴訟復代理人弁護士 松尾美根子

被告 株式会社静岡相互銀行

右訴訟代理人弁護士 堀家嘉郎

同 五十嵐七五治

右訴訟復代理人弁護士 桑田勝利

被告 阪田正道

右訴訟代理人弁護士 中田長四郎

同 村山輝雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

第一、被告銀行に対する請求

一、請求の原因記載の事実は、当事者間に争いがない。

二、成立に争いない乙第一号証、弁論の全趣旨により真正の成立を認める丙第一号証、証人間平馬の証言および被告阪田本人尋問の結果によると、被告阪田は、訴外富士資材株式会社の代表取締役をしていたが、訴外株式会社間組との取引の関係などから同会社の取締役建築部長をしていた訴外間平馬のところへしばしば出入りしていたところ、昭和四〇年一一月一五日、間平馬から本件手形は詐取されたものであるから期日に支払えないが、不渡処分にならないように被告阪田が金員を出捐し、あわせて銀行への預託手続をして貰いたい旨依頼されたので、これを承諾し、同月一八日間平馬に交付する代りに被告銀行に対し、自己の金員金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を間平馬名義で、東京手形交換所に異議申立提供金として提供する目的で預託したこと、そして間平馬は同日被告阪田に対し、同被告が出捐した右金員を借用金として返還することを約したことが認められる。

右の事実によれば、同日間平馬と被告阪田との間に金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の金銭消費貸借契約が成立したと認められる。

三、間平馬が同日被告阪田に対し、右貸金の担保として本件預託金返還請求権を譲渡することを約したこと、間平馬が同日被告銀行に対し、書面で、右債権譲渡の通知をなし、同書面が翌一九日被告銀行に到達したことおよび右書面には昭和四〇年一一月一八日の確定日付があることは、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、右の金銭消費貸借および債権譲渡が被告阪田と間平馬との間の通謀虚偽表示であり、または間平馬の心裡留保によるものである旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。また、間平馬が本件預託の際被告銀行との間で、本件預託金返還請求権を他に譲渡しないことを明示または黙示に合意したとも主張するが、この事実を認める証拠も全くない。

四、ところで、いわゆる預託金とは、手形の支払義務者が銀行に対して手形交換所に異議申立を依頼するについて、手形の支払拒絶が支払能力の欠如によるものではなく、従ってその信用に関しないものであることを明らかにするとともに支払銀行が手形交換所に提供する異議申立提供金の見返資金とする趣旨で銀行に預託されるものである。この意味で預託金は、手形の支払能力を示す手段であるが、それ以上に当該手形の支払いを担保する機能を営むものではない。このように預託金制度はこれによって手形権利者に対して他の者に優先する特別の権利を与える効果を有するものではないから、手形義務者がこの預託金返還請求権を他に譲渡したとしても、その債権譲渡をもって一般的に手形権利者に対抗できないとか、手形権利者に対する信義則に反し、または権利の濫用になるものであるとはいえない。またこのような預託金および異議申立提供金制度の目的に照らし、それが手形取引の安全に奉仕するものであることは自明であり、かつ、預託金返還請求権が原告の再抗弁(三)の1ないし5記載の性質を有することは、当事者間に争いない。しかし、預託金返還請求権を譲渡しても、右1ないし5に記載の預託金の使用目的、現実の返還請求権履行の条件などに消長を及ぼすものではないから、これにより手形上の権利者に特段の損害を及ぼすとか、預託金制度の目的を害するという結果を招来するものではない。従って本件預託金返還請求権の譲渡をもって、公序良俗に反する行為であるとか、債権譲渡の予約と解すべきであるとする合理的な理由はない。

そうすると、右債権譲渡により、本件預託金返還請求権は、昭和四〇年一一月一八日被告阪田に移転し、この債権譲渡は同日付の確定日付ある証書によってなされているから、その後に債権差押および転付命令を得た原告に対抗でき、右債権差押および転付命令は、目的たる債権が存在せず、無効であるといわなければならない。

よって、右転付命令により本件預託金返還請求権を取得したことを前提とする原告の被告銀行に対する請求は、理由がない。

第二、被告阪田に対する請求

請求の原因(一)、(二)記載の事実は、当事者間に争いがない。

原告は、右債権譲渡により間平馬は他に見るべき財産がなくなった旨主張するが、当時、間平馬に右預託金返還請求権のほかに資産がなかったことを認める証拠はない。かえって、証人間平馬の証言によれば、当時、間平馬は株式会社間組の取締役をしていて同会社の株式を四~五〇万株保有し、その株式の時価は一株当り金二〇〇円を下らなかったことが認められる。

のみならず、第一の二、三で認定のとおり、間平馬は被告銀行に預託するため被告阪田から金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を借り受け、その借受金をもって預託した預託金の返還請求権を直ちにその借受金債務の担保として被告阪田に譲渡したものである。これによれば、右債権はもともと間平馬の債権者の共同担保となっておらず、その前後を通じて見れば、間平馬は債権譲渡により資産の減少を来したものではないから、間平馬の債権譲渡行為によって債権者が害されることはない。したがって右債権譲渡は詐害行為を構成しない。

よって、この債権譲渡を詐害行為であるとしてその取消しを求める原告の被告阪田に対する請求もまた理由がない。

第三、結論

以上の次第で、原告の被告らに対する請求はいずれも失当であるから、これを棄却する。<以下省略>。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 堀口武彦 小林亘)

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